2017年09月07日

核の「光」に備えて

ふと気がつけば前回更新から2ヶ月以上経ってる!SF(すこし不思議)!
近況は相変わらずで、サバゲにも行かず作文を書く毎日を送っています。やりたいネタは色々あるしホワイトロックさんのイベントも行きたかったんですが…orz

ところでガラっと話は変わりますが、先日のJアラートはびっくりしましたね。
引き続き行われた核実験やらJアラートの運用やらBMDやら北朝鮮への対応やら色々と話題が出ていますが、それらの議論やJアラート解説の中でもほとんど触れられていないためか意外と多くの人が理解しておらず危機感を感じたことがありましたので、ここで記事にしておこうと思います。

結論を先に書くと
「核爆発で怖いのは爆風よりも放射能よりもまず『熱線(光)』
という話です。
私は核の専門家でもないですし民間防衛の専門家でもないですが、空気と光に関してはちょっとだけ詳しいので、その観点から「なぜ光が怖いのか、どうすればいいのか」をまとめます。
Twitter でもすでに何度か書いたので「またその話か」と思われるかもしれませんが、やっぱり少しでも多くの人の頭の片隅に置いてほしい話だと思うので、何卒ご容赦ください。
ちょっと長くなってしまったので、お忙しい方は太字下線部分を流し読みだけでもしていただければ幸いです。


●核爆発が引き起こす3種の被害
核爆発が被害をもたらす原因は、大きく分けて「爆風」「熱線」「放射能」の3種類があります。詳しくはwikipediaの以下のページを読んでください。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E7%88%86%E7%99%BA%E3%81%AE%E5%8A%B9%E6%9E%9C

以上のページを読めばだいたい何が起こるかはわかると思うのですが、ここで強調したいのはそれぞれの「速度」と「範囲」です。

爆風は核爆発によって一気に高温になった大気が膨張し、空気の壁となって周囲に広がっていきます。その破壊力は放射能や熱線よりもはるかに強力ですが、空気を媒体として伝わる力なので、その力が周囲に伝わる速さはせいぜい音速(330m/s)程度となります。ですので、例えば1km先で核爆発が起きたとしても、爆風が襲ってくるまでに3秒間程度の猶予があるわけです。
北朝鮮の核実験の出力推定が 160kt らしいですが、この場合はほとんどの建造物が破壊されるだけの爆風が及ぶ被害半径は4km弱のようです。もし運よく爆発地点から少し離れていたならば、そのほんの数秒の間に物陰に隠れるあるいは伏せるだけでも生存率は大きく変わってくるでしょう。

また放射能については、爆発の瞬間に致死被曝量となるのは爆心地周辺のごく狭い領域です。この領域にいた人は長くても数週間以内に死亡することになりますが、その心配をする暇も無く爆風によって吹き飛ばされて死亡する人がほとんどなので、あまり心配する意味はありません。
瞬間的に致死被曝量を浴びなかったとしても爆発地域周辺に留まるとその影響は蓄積されていくので、長期的に見ると放射能による死者は増えていきます。しかし現代では放射能汚染除去の技術もあるので、手の打ちようが無いということはあまり無いのではないかと思います。

一方で、熱線は爆風や放射能とはかなり性質が異なります
熱線は核爆発にともなってできる火の玉が出す光のことです。「光」ですので、速さはもちろん「光速」の 300,000,000 m/s となり、音速の100万倍くらいになります。
また熱線によってⅢ度火傷(人の肌がケロイドになるほどの火傷)が起きる被害半径は160ktだと 5km 強となり、爆風による被害半径よりも広いのです。

参考までに、以下のウェブサイトにて札幌駅上空で 150kt の核弾頭が爆発した場合の被害をシミュレートしたものを作ってもらいました。
NUKEMAP by Alex Wellerstein

核の「光」に備えて

中心の黄色円が火の球の半径で、緑円が致死放射線の被ばく半径、青円が爆風被害半径、外側のオレンジ円がⅢ度火傷の起きる半径です。
また右上の数字が想定される死者数で、その下が負傷者数になります。これが正しければ、一発で札幌の人口の約半分が死傷することになりますね。投下地点を少しずらすだけでもちゃんと数字が変わったので、該当地域の人口密度情報も参照して想定しているみたいです。凝ってるなぁ…
当然のことながら、現実には札幌駅の真上にピンポイントで一発だけ核が飛んでくることは無いでしょうから、この円の中に入ってる・入ってないというのはあまり意味がありません。これくらいの広さなんだというイメージを掴んでいただければよいかと思います。

●熱線が引き起こす被害
さて、先ほど「1km先で核爆発が起きても爆風が来るまで3秒の余裕がある」と書きましたが、 300,000,000 m/s で飛んでくる熱線に関してはその余裕が 0.000003 秒しかありませんので、人間の反応速度では到底対応できません。つまり、もし1km先で起きた核爆発の瞬間にその光を直接浴びてしまった場合、爆風が来るまでの3秒間で伏せるどころか全身火傷でパニックになりそのまま吹き飛ばされることになるでしょう。
先ほどの札幌マップの場合であれば、爆風破壊半径の外縁である3.74kmの地点に爆風が到達するまで11秒ほどかかりますが、熱線はより遠くの5.26kmまでわずか0.000018秒で飛んできてⅢ度火傷を引き起こすわけです。

さらに、この熱線はあらゆる場所にほぼ同時に届くことになりますので、半径数kmの範囲で同時に火災が発生することになります。
熱線による点火の直後に爆風が通過するため一時的に火は弱まるものと思いますが、爆風が全てをなぎ倒した後になってその瓦礫に追い打ちをかけるように火災が広まっていくことになるでしょう。

●過去の資料に見る熱線の威力
日本人ならば誰もが広島原爆資料館についてある程度知っていると思いますが、パッと思い浮かぶ被害展示内容といえばなんでしょうか?
溶けたガラス? 皮膚が焼けただれた人形? 柱に残った人の影? あるいは燃えさかる瓦礫と化した街の光景を伝える絵?
実は、ここに挙げたものはすべて「熱線」によって引き起こされた被害です。原爆被害について殊更に放射能の恐ろしさや強大な爆風の破壊力が宣伝される一方で、我々が実際に見たことのある原爆被害展示のほとんどは強力な熱線に因るものとなっています。
当時の新聞や民衆は原爆を「ピカドン」とよんでいたと聞いたことがあると思いますが、この「ピカ」という光こそが熱線そのものであり、上に挙げた被害のほとんどはこの瞬間に引き起こされたわけです。その後に続く「ドン」の爆風がもたらした被害は、その強力な破壊力によって広島の街を瓦礫に変えたという点「だけ」であり、そうなる数秒~数分前の時点で広島中心部の半径数kmは熱線によってすでに焼き尽くされていたということになります。
「皮膚の焼けただれた人達が行列を成す」という話からも、爆風には巻き込まれなかったが熱線で火傷を負うことになった人がいかに多かったかということを物語っています。

実際に熱線が瞬間的に周囲を焼く様子については、1955年にアメリカで行われた核実験のビデオ映像で見ることができます。


「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」でもこの実験を真似たシーンがありますね。こちらだとダミードールが熱線によって焼かれる様子もわかりやすいです。


爆風による派手な破壊被害に目が行きがちですが、いずれの動画を見てもわかるとおり、核爆発が起きた瞬間に明るく照らし出された地面や家屋の壁から煙が立ち上っています。これが熱線によるものです。火事のように派手に燃え上がらないのは、表面が瞬間的に溶解してしまうためでしょう。周辺が同時に明るくなる一方で、爆発地点に近い側と遠い側で煙の上がるタイミングに少しタイムラグがありますが、これは熱線の「速度」ではなく「強度」の差を表しています。距離が離れるほど強度が下がるため、溶け出すだけのエネルギーを受け取るまでにかかる時間が多く必要になるのです。
そしてその少し後になって強力な爆風が家屋を木っ端微塵にしていますが、実際の実験映像では光ってから爆風が到達するまでに3~4秒ほどなので、これらの家屋が設置されたのは爆発地点からおよそ1kmの地点だと思われます。これほど強い爆風を受ければもちろん必ず生存できるとは言えないとは思いますが、この数秒の間にどんな行動を取れるかによってその確率をほんの少し上げることは出来ると思います。そしてその行動を取れるかどうかは、爆発時に熱線を浴びずに済むかどうかにかかっていると言えるでしょう。

●「光」を浴びないために
もし何の前触れも無しに突然核攻撃が行われそれが数km先で爆発したとしたら、熱線を浴びるか否かは完全に運任せということになります。そうなると私たちに出来ることは何もありません。
しかしJアラートは、核爆発が起きる前にそれが起きる可能性を教えてくれるものです。つまり核爆発が起きる前ならば、光速で飛来する熱線へも対処することが出来ます。光(熱線)はこの世で最も速く空間を移動できる存在ですが、その光ですら従わざるを得ないのが時間だからです。

その対処法を考える上で重要な光の性質が「モノにぶつかると止まる」ことと「数秒で収まる」ことです。
光はとても速いですが、モノにぶつかるとそこで止まってしまいほとんど貫通できません。だからこそ影が出来るわけですね。また核爆発の火球は発生直後は超高温ですが爆発後は急速に冷えていき、数秒以内に十分に温度が下がります。
よって、対処法は「この数秒間の間だけでも熱線を遮ることが出来ればいい」ということになります。

一番確実なのは、「空が見えない場所に逃げる」です。核弾頭がどこに落ちるかはわかりませんが、それが空中爆発するのは間違いないので、空が見えない場所であれば熱線を浴びずに済むわけです。

ただし屋内に逃げたとしても窓から外が見えるようでは意味がありません。窓ガラスは(当たり前ですが)光を通す物質なので、熱線も遮ってくれません。
ここで有効なのは「カーテンやシェード」です。これらの日光を遮る器具は当然ながら熱線も遮ることが出来ます(数秒で燃え落ちてしまいますがそれだけもてば十分です)。爆風によるガラス片の飛散を防ぐ意味でもある程度効果があるでしょう。実は先ほどの実験の動画の中でも、シェードのおかげで屋内の子供ダミードールが焼かれずに済んでいるシーンが写っています(その後の爆風で吹き飛びますが)。


逃げ場所が無い場合でも「皮膚の露出を避ける」という策があります。
上記のとおり数秒もちさえすれば良いわけですから、例えば上着を頭に被るなどの対策を取るだけでも全然違うはずです。また白色に近いほど熱線のエネルギーを反射するようになるので、できれば色の明るい物で覆う方がいいでしょう。

なお、これらの対策はあくまで「熱線を防ぐ」だけの効果しかありませんので、その後に襲ってくる爆風をしのげるかは全く別の問題です。
爆風に関しては、とにかく頑丈な建物の内部に閉じこもるくらいしかないと思います。

●まとめ
核爆発の熱線は光速で飛んでくるので「見てから避ける」ことはできません。さらに、熱線で火傷をする範囲は爆風による破壊範囲より広いです。
しかしJアラートのおかげで、熱線が飛んでくる前にそれを知ることができ、火傷を負わないための対策を取ることが出来ます。
熱線による火傷を防げたとしても生き残れるかはわかりません。でも火傷してしまうとその可能性が大きく下がるのは間違いないでしょう。

「もしも」のとき、この記事の内容が役に立ってくれることを祈ります。そもそもそうならないことを祈りますが。



Posted by わいと  at 18:36 │Comments(0)駄文

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わいと
わいと
サバゲ歴:2010年5月から
職業:学生→サラリーマン
生息地:北海道札幌市近郊→東京都
装備:ドイツ連邦軍・ドイツ警察など
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